かつては瀬戸内海や九州北部など広い範囲で姿を見ることのできたカブトガニですが、
環境破壊や開発によって激減。
現在は天然記念物に指定され、愛媛県西条市や岡山県笠岡市など、
ごく限られた場所にのみ生息しています。
それでも海外産のカブトガニがコンスタントに輸入されているため、
小型の個体なら2000円程度で購入できます。
意外とお手頃価格なカブトガニですが、水質、特に塩分濃度に注意しないと簡単に☆にしてしまいます。
水質を中心に、カブトガニの飼育方法をまとめてみました。
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この記事の目次
淡水でのカブトガニの飼育は原則NG
自然下のカブトガニは、河口に近い川の水と海の水が混ざり合う「汽水域」で誕生し、
やがて成長とともに海の浅瀬へ移動。
生体になると水深20mほどの海底で暮らすようになります。
そして、産卵の季節には再び河口や干潟へと上がってくるのです。
こうした生態サイクルのため、カブトガニは真水に近い汽水から海水まで、
幅広い水質適応性を持っています。
ちなみにカブトガニを淡水で飼育できると考えている方もいるようですが、これは誤解。
カブトガニとよく似た姿で、田んぼなどに生息するカブトエビと混同したものでしょう。
カブトエビはその名の通り、エビの仲間である甲殻類。
対してカブトガニは、クモやサソリに近い生き物です。
そのためカブトガニ飼育にチャレンジする際は、
淡水で金魚や熱帯魚と一緒に飼うといったことを考えず、海水魚に準じた方法にしましょう。
カブトガニ飼育に必要な設備
50cm~60cmまで成長するカブトガニですが、
アクアショップで販売されているのは主に3cm~7cmのベビーサイズ。
一般的に魚や甲殻類は最大サイズを想定して飼育容器を準備しますが、
3cm~7cmのベビーを50cm台にまで育て上げるのは至難の業です。
成長もスローペースなので、一般的な60cmのレギュラー水槽で間に合います。
ひとまわり小さい45cm水槽でもサイズ的には十分ですが、
デリケートなカブトガニにはやはり、ゆったりした水量を用意したいものです。
底には目の細かいサンゴ砂を3cm~4cmほど敷きます。
カブトガニは砂に潜る性質があること、また飼育に適した弱アルカリ性の水質を維持するためです。
砂の深さは個体サイズに合わせて調節してください。
身を隠せないほど浅いとストレスになる可能性があります。
水質を保つためフィルターは必須。
あまり水を汚さないカブトガニですが、
水質が悪化していると脱皮の際、障害を起こしやすくなります。
野性では川の流れや潮流のあるところで暮らしているので、
外部フィルターの強めな水流も苦にしません。
水質浄化のサポートとして、水槽底面が狭くなり過ぎない程度にライブロックを入れてもよいでしょう。
カブトガニ飼育に適した水質
カブトガニは成長期の大半を河口付近のエリアで過ごします。
河口の近くは潮の満ち引きや川の流れ、潮流によって頻繁に塩分濃度や水質が変化します。
カブトガニは本来こうした変化にとても強い生き物ですが、
飼育下では不思議なことに塩分濃度が薄くなると、とたんに落ちやすくなってしまいます。
状態よくカブトガニ飼育をするなら海水での飼育をおすすめします。
汽水に近くなればなるほど難易度が増しますし、
純淡水での飼育は原則として不可能です。
どうしても汽水でカブトガニを飼育したいという方には
東南アジア原産の「マルオカブトガニ」がおすすめ。
現地では産卵のため川の上流付近まで遡上することがあり、
カブトガニ4種の中でもとりわけ淡水への順応性が高いと考えられています。
ショップによっては「淡水カブトガニ」の名前で販売しているところも。
カブトガニ特有の槍のように伸びた尾を持っていますが、
断面が丸いことから「マルオ」の名がつきました。
マルオカブトガニに限らず、「淡水○○」の名前で販売されている水中生物に共通することですが、
淡水よりは汽水、汽水よりは海水で飼育する方がはるかに飼育が簡単です。
カブトガニは基本的に海水魚の飼育法が適していると考えてください。
生きた化石と呼ばれているカブトガニ
シーラカンスやカブトガニのように、
大昔から姿を変えずに存在し続けてきた生物のことを「生きた化石」と呼んでいます。
中でもカブトガニは、恐竜たちの栄えていた約1億9000年から
1億4500年前のジュラ紀からほとんど姿を変えていません。
悠久の時を越え、地球規模の大量絶滅をしぶとく生き延びた、カブトガニの道のりを調べてみましょう。
地球の生き物を一新させた五度の大量絶滅
最初は単純な構造からスタートし、やがて複雑な多細胞生物へ。
さらに進化を遂げ、私たち人類のように複雑な思考や抽象的表現のできる生物へと発展…。
進化の道のりはそう単純にまとめられるものではありません。
地球上の生命は過去に少なくとも5回、大量絶滅を経験しています。
オルドビス期末、デボン紀後期、ベルム期末、三畳紀末、
白亜紀末…この5回の大量絶滅を「ビッグファイブ」と呼んでいます。
今から2億5000万年前のベルム期末には地球上の生命の95%もが絶滅したといわれているのです。
巨大隕石の落下、大規模な地殻変動、大気組成の変化など、
大量絶滅の原因にはさまざまな説がありますが、いまだはっきりとは分かっていません。
大量絶滅のたびに地球を支配していた代表的な生物が消えていきました。
例えば白亜紀には、敵なしの存在だった恐竜もあっけなく絶滅し、哺乳類へ主役の座を譲るのです。
一度は激減する生物たちですが、
やがて時間とともにさらに進化して爆発的に種を増やしていきます。
もしビッグファイブが起こらなかったら、私たち人類が登場することもなく、
地球はオルドビス期と同じ、軟体動物の支配する惑星だったかもしれません。
カブトガニの祖先である「アグラスピス」(ベグビチア)はこのオルドビス期に登場した生物です。
アグラスピスの仲間は徐々に姿を変えながらビッグファイブを乗り越え、
ジュラ紀には現生のカブトガニとほとんど姿の変わらない「メソリムルス」が登場しています。
生きた化石は主流派になれなかった生物
オルドビス期に続くシルル期に大繁栄した海のモンスターが「ウミサソリ」。
アグラスピスから枝分かれして進化した生物で、
名前の通り現在のサソリに似た姿をしていますが、水中に棲み、サイズもずっと大きくなります。
ウミサソリの一種「プテリゴートゥス」はなんと全長3m。
ヒレのように発達した肢で泳ぐこともでき、大きなハサミで他の生物たちを捕食していました。
プテリゴートゥスなどウミサソリの仲間は絶滅してしまいましたが、
最も近縁にあたるカブトガニは現代まで生き残り、生きた化石と呼ばれるようになりました。
もうひとつ、ウミサソリの子孫にあたる生物が今も存在しています。
それはクモとサソリ。
クモとサソリは現在、約3万5000種にも分化し、昆虫と並んで地上の主流派となっています。
一方、海中をすみかに選んだカブトガニは
「ミナミカブトガニ」「アメリカカブトガニ」など、わずか4種のみ。
生きた化石として有名ではありますが、地球という舞台では端役にすぎないのです。
同じ祖先を持っていても、クモやサソリのように
新しい地上というステージに進出して爆発的に種を増やしたグループもいれば、
カブトガニのように姿をほとんど変えず、
新しい環境に進み出ることもなくひっそりと暮らし続けるグループもいます。
後者のようなグループを「日和見的生物群」と呼んでいます。
日和見的生物群は主役を張ることもないかわり、
ビッグファイブのような激しい環境変化にも耐え続けていけるのです。
カブトガニの寿命
歩んできた道のりの長さに比べ、カブトガニの個体の寿命はさほど長くありません。
まだ未解明の部分もありますが、成長するまでに15年、
その後10年、計25年の寿命だと考えられています。
固い殻をまとっているカブトガニですが、柔らかい腹側が弱点となっているので、
成長しても決して無敵ではないのです。
生物としてのしぶとさと、個体としての寿命は必ずしも一致しないのですね。
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