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カブトガニの血液はなぜ青い?医療の世界で役立てられる青い血事情

2017年9月3日

 

カブトガニの血が青いことをご存知ですか?

ずらりと並んで縛りつけられたカブトガニから、

青い血が抜かれているちょっとショッキングな画像を目にした方もいるでしょう。

カブトガニの血はなぜ青く、人間によって採血されているのでしょうか?

カブトガニの血をめぐるミステリーをご紹介しましょう。

 

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カブトガニの血液はなぜ青い?

 

英語で「青い血(blue blood)」と言えば、「貴族」や「良い血筋」を意味します。

上流階級の白人は色白が多いため、静脈が青く透けて見えることから、たとえられるようになりました。

一方、創作の世界では吸血鬼や宇宙人が、しばしば青い血の持ち主として描かれます。

人間の赤い血とは真逆の毒々しく、不気味なイメージを強調するためでしょう。

ところで、「生き物の血液は赤色」と思い込んでいませんか?

実はカブトガニやエビなど一部の生き物には、青い血が流れているのです。

秘密は酸素を運ぶための成分。

人間や多くの動物では「ヘモグロビン」が血液内で酸素を運ぶ役割を担っています。

他方、カブトガニの場合、「ヘモシアニン」という物質が同じ役目を果たしています。

ヘモシアニンは無色透明の物質ですが、酸素と結びつくと青くなる性質があります。

これはヘモシアニンの中に銅イオンが含まれているため。

銅イオンは赤や緑の光を吸収する一方、青い光だけは吸収しません。

そのため青い光だけが通過して、酸素と結びついたヘモシアニンは青く見えるのです。

カブトガニの血液1リットルの中には、約50グラムのヘモシアニンが含まれています。

そのためカブトガニの血は青く見えるのです。
 

カブトガニ大量死からの大発見

 

今からおよそ半世紀前、米国の血液学者フレッド・バンは、

カブトガニを使った血液循環の研究中、奇妙な発見をしました。

ある細菌の感染によって死んだカブトガニを解剖してみると、

血液がなかば固まってゼリー状になっていたのです。

細菌感染で命を落としたすべてのカブトガニの血が固まっていたわけではありません。

調査を進めるうち、特定の細菌だけが血液凝固をもたらすことが分かってきました。

そしてバンは細菌の中でも「グラム陰性バクテリア」だけがこの現象を起こすことを突き止めたのです。

最初の成果が論文にまとめられたのは1956年のことでした。

バンは「シュワルツマン反応」を連想しました。

シュワルツマン反応とは、グラム陰性バクテリアが

赤い血液を持つ動物に対して引き起こす現象のこと。

たとえば、グラム陰性バクテリアの一種であるチフス菌をウサギに皮下注射すると、

必ず注射箇所に壊死が起こります。

これがシュワルツマン反応です。

バンは学者仲間であるジャック・レビンをパートナーに招き、

カブトガニとグラム陰性バクテリアのかかわりについて本格的な研究を始めました。

グラム陰性バクテリアは、人間に対してもやっかい存在。

カブトガニの血液凝固が一種の警報装置として使えないかとバンは考えたのです。

 

医療の世界で役立てられる青い血

 

風邪をひくと血液中の白血球数が増加します。

人体の中で、白血球は細菌を退治する兵士の役だからです。

対して、カブトガニの血液には白血球がありません。

代わりを務めるのはヘモシアニン。

例えばカブトガニがケガを負い、傷口から海水とともにグラム陰性バクテリアが浸入してくると、

血液がゼリー状に固まって素早く傷口をふさぐのです。

白血球よりは血小板の働きに近いと言えるかもしれません。

ヘモシアニンの特長は、ごく少量のグラム陰性バクテリアにも反応する点。

ウサギを使った実験では48時間、カブトガニの血液なら45分。

反応時間も格段に速いため、シュワルツマン反応で菌の存在をさぐるより、

はるかに簡便だったのです。

バンとレビンの研究によってカブトガニの血液は、

医療器具や薬品の安全性を確認する格好のツールとなりました。

他の研究者によって血液の中からHIVに効果のある成分も発見されています。

現在では、米国を中心にカブトガニの採血がひろく行われています。

約30%ほど血液を抜かれたカブトガニは再び海へ放されますが、

やはりダメージは大きく、命を落とす個体も少なくないようです。

カブトガニにとっては大きな迷惑かもしれませんが、

彼らの青い血液は、私たちを救う高貴な存在なのです。

 

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