タウナギ(Monopterus albus)はウナギと名前がついていますが、
ウナギとは全く関係のない魚類で、
トゲウナギも含めたタウナギ目(もく)に属する15属99種のグループです。
胸鰭のみならず腹鰭もなく、背鰭、尾鰭も痕跡的で、
魚というよりほとんどヘビのような外観をしています。
英語名はswamp eel、中国名は魚へんに善と書く字があてられます。
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日本以外のアジアでは水産上重要種
アジア各国では食用として普通に用いられており、
私もかつて訪れた台湾やベトナムの市場で生きた状態で
うねうねと大量の本種が狭い水槽に入れられて売られているのをよく見たものでした
(どの国のそれもヘビが嫌いな人にとっては相当気持ち悪く思われる密度でした)。
一度食べてみたいと思いながらなかなか食べる機会がないのでその味はわかりませんが、
野菜などと一緒に炒めて食べるのが一般的だと思います。
中華料理では精力剤や滋養強壮剤としての目的もあるとか。
タウナギ科の分布はかなり広範囲
このタウナギ目にはタウナギ科があり、その科にはMacrotrema 属、
Ophisternon 属、Synbranchus 属、Monopterus 属の4属が属しています。
Monopterus 属は日本にも分布している一般的なタウナギ、
Synbranchus 属は南米タウナギとかアナコンダシンブランクスと呼ばれる属、
Macrotrema 属の詳細はわかりませんが、
ネットで見るとタイやマレーシアに分布する目の退化したタウナギ類のようです。
さらにOphisternon 属は東南アジアや南アジア、中央アメリカや西アフリカに分布しているようで、
これも目の退化した種が含まれているようです。
タウナギはレインボーフィッシュの仲間や多くの淡水性ハゼ類と
同様に一度海に進出したものが淡水に順応していった魚なので、
このように大洋を超えて分布することが出来たのでしょう。
しかし、いわゆる目の退化した種は洞窟など光の届かない環境でそれなりに時間をかけて進化していったはずで、
それぞれの種で分布拡大や進化の事情は異なるような気がしています。
私はその論文を探すことができませんでしたが、
この科全体を見渡した系統地理的な研究報告があればぜひ読んでみたいものです。
性転換する魚
本種は胎生メダカのソードテールとともに淡水魚では比較的珍しい性転換をする魚として知られており、
小さいうちはメスで成長するとオスになる雌性先熟と呼ばれるタイプに分類されています。
この性転換、魚では割と多くみられ、有名なのはカクレクマノミもその一つです。
オスが先か、メスが先かは種の生存戦略によって異なります。
たとえば、メスからオスになる性転換では、大きなオスは喧嘩が強い傾向にあり、
広いなわばりと複数のメスを確保できる可能性が高い場合が多いでしょうし、
逆のオスからメスへの性転換の場合は、
なわばりを確保する必要はなくて、大きなメスが多くの卵を産みやすい傾向が考えられます。
タウナギはオスが巣穴にこもり、卵を口の中で保護することが知られていますので、
多分大型のオスのほうが敵から卵を守りやすく、
たくさんの子(遺伝子)を残しやすいから雌性先熟の戦略をとったのではないでしょうか。
この性転換の話、生き物の繁殖戦略とか行動生態学、進化生物学を考えるうえでも非常に面白い話題で、
和文の良書も出ていますので、興味のある方はそちらで勉強してみてください。
日本には二種のタウナギ
日本に生息する本種はかつて海外からの移入種とされてきました。
奈良県には1898年に朝鮮半島から個人が持ち帰った個体が殖えて定着したようです。
沖縄の個体は中国からの移入ではないかとされていましたが、口中の保護は行わないようで、
近年の遺伝的な研究で沖縄固有の種であることがわかり、
日本に固有種と移入種の二種が分布していることがわかりました。
やっぱり飼育は簡単
ショップではアジア産のタウナギが安価に、
若干高いですが南米産のシンブランクスがたまに売られています。
どの種も特に気を使う必要もなく、小さな個体は赤虫を与えていけばよく、
大型の個体はすぐに配合に餌付いてくれます。
彼らを飼うときの唯一の注意点は飛び出し事故が多いこと。
水深を浅くしてふたをきちんとすることが必要です。
もちろん、空気呼吸をするため、
密閉はいけませんので隙間は濾過槽に用いるウールなどでふんわりと目止めしておけばよいでしょう。
ハイギョよりさらにゆったりとしており、癒し系です。
寿命はわかりませんが、私はマッチ棒くらいの幼魚を採ってきて、
5年で60㎝を超えて死にましたので、最低でもその程度は生きると思います。