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深海に住むちょっと不思議なシンカイアシボソヤドカリの生態

2016年12月24日

私は貝になりたい 私は貝になりたい オリジナル・サウンドトラック [ 久石譲 ]

 

私は貝になりたい、という映画がヒットしたこともあったように、

安心できるもの静かな場所で、深い思索とともに日々を暮らしたい・・・。

という切なる願いは、現代人の数多くが共通して持っている願いなのかも知れません。

そんな希望を、自らの力で実現している生き物がいます。

それが今回ご紹介するシンカイアシボソヤドカリ。

 

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深海にすむ、ちょっと不思議なシンカイアシボソヤドカリ

シンカイアシボソヤドカリ 提供

 

学名はParapagurus、furici 、節足動物門、軟甲網、十脚目、異尾下目、

オキヤドカリ科、シンカイヤドカリ属の生き物です。

体長は約15cm、生息水深は300mから3000mほどにもなります。

 

甲殻類の体は、節になった体節と、そこから一対生えている付属肢からなりたっています。

ムカデなどは、節の形も付属肢の形も同じようなものが連続していますからイメージがしやすいですが、

エビやカニなどは、節の形も、付属肢の形も、その場所ごとに一部が発達、

退化が著しいため、一見するととてもそうには見えませんが、例えば口の近くにある食事のための腕も、

かん脚とよばれる付属肢ですし、あごも附属肢なのです。

 

 

 

これからの季節は、宴会などでエビやカニを目にする機会も多いでしょうから、

この様子を観察しつつ、周りの方にもうんちくを披露すると、盛り上がるかもしれませんね。

 

子供が親と同じ姿形で発生することを直達発生といいますが、

十脚類の大部分は、幼生は親とは違う形をして生まれてきます。

ゾエアとしてふ化し、海中を10日から1か月ほどの間プランクトンとして漂いながら成長し、

ヤドカリの場合はグラウトコエという段階の幼生になると、海底で小さな巻き貝の殻を見つけて、

脱皮をしつつ成長し、貝が小さくなってくると新しい貝殻を探す・・・

というのが、ヤドカリの暮らしです。

 

パートナーは貝殻ではなく、スナギンチャク

スナギンチャク-1 (海水魚 サンゴ)ベトナム産マメスナギンチャク おまかせカラー SSサイズ(1個) 北海道・九州航空便要保温

ヤドカリというと、巻き貝に住んでいる姿を想像されることがほとんどだと思いますが、

このシンカイアシボソヤドカリは、スナギンチャクという生き物に寄生しています。

そしてこのスナギンチャクには、強力な毒素であるパリトキシンが含まれています。

 

ソウシハギ wiki

 

予断ですが、Twitterで「大きなカワハギが釣れた!」と

喜び勇んでいる釣り人の画像が投稿されましたが、

これがカワハギではなくソウシハギという、パリトキシンに毒化されている種類の魚であったために、

周りのTwitter利用者から慌てて、食べないように警告を受けていたという一幕がありました。

彼は命拾いをしましたね。

 

カワハギ 提供

 

カワハギ。無毒

 

ソウシハギ 提供

 

ソウシハギ。有毒。模様が毒々しい・・・。

 

日本でのシガテラ毒の中毒件数

アオブダイ f

 

このパリトキシンによるシガテラ毒は、

わが国では1950年代から主にアオブダイを食べた人による中毒件数が20件以上報告されています。

この中毒者の中には死者も伴っており、主な中毒症状は横紋筋融解症による激しい筋肉痛で、

症状としてはこのほかに、筋肉色素であるミオグロビンが尿中に溶け出すことで、黒っぽい尿が出たりします。

 

スナギンチャク-3

(海水魚 サンゴ)ベトナム産マメスナギンチャク おまかせカラー SSサイズ(1個) 北海道・九州航空便要保温

 

このパリトキシンは、スナギンチャク自身が産生しているわけではなく、有毒渦鞭毛藻類の一種である、

Ostreopsis sp.を、食べ物として取り込むことで蓄積されると考えられています。

ちなみにこれは熱帯から亜熱帯地域に生息しているのですが、

近年九州や四国の沿岸でも確認されていますから、次第に北上しているといえそうです。

 

パリトキシンが猛毒である理由

 

 

さて、パリトキシンの横紋筋融解症が、なぜ重篤な患者が死に至るかというと、

パリトキシンが人間の細胞膜のナトリウム透過性を著しく上げる効果があるためです。

これによって意図しない筋肉の膨張が起こり、血管を締め付けて虚血性の心疾患などが併発します。

 

筋肉を動かす指令というのは、基本的にはデジタルな電気のパルスと同様のものです。

細胞膜の表面はマイナスの電位に保たれているのですが、

細胞膜の中にプラスの電荷をもったナトリウムが流入することで、

マイナスに保たれていた膜電位がゼロに向かって進み、そして0をこえて正の電荷になります。

これによって筋肉を動かす指令であるパルスが生まれるわけですが、

その後、細胞膜の中に含まれる、ナトリウムと同様にプラスの電荷をもったカリウムが、

 

 

 

細胞の外に流出する再分極によって、再び膜電位は負の方向へと移動します。

このように電気信号のパルスを、絶えず我々は体の中でつくっているということなのです。

この活動電位は幅が約1ms、振幅は約100wvです。

 

この再分極と言う動作に注目してみますと、カリウムは、リークチャネルという出口から、

細胞内よりカリウム濃度の低い細胞外へとたえず出ていこうとしていますが、

細胞膜電位は負で、細胞外は相対的に正なので、

カリウム+の電位と反発するので、一定以上は流出せずに押し戻されるようになっています。

この、濃度の勾配によるカリウムが流出するポテンシャルは、次の数式であらわされます。

 

-61 × log10(カリウム+in/カリウム+OUT)

 

カリウムが流出していない状態は、電位勾配ポテンシャルのE(mv)の値と釣り合います。

そして、その釣り合った状態というのが、前述した細胞膜がマイナスの電位に保たれた状態なのです。

この式を見ると、右項は細胞内と細胞外のカリウム濃度が3倍で0.5強、10倍で1、100倍で2ですよね。

カリウムの濃度勾配は電位勾配と比べると影響力は弱いのでしょう。

 

 

スナギンチャクとヤドカリの共生の形にも種類がある

スナギンチャク-1 (海水魚 サンゴ)沖縄産 マメスナギンチャク ピンクベージュ Sサイズ(1個) 北海道・九州航空便要保温

 

さてここで、シンカイアシボソヤドカリと行動を共にするスナギンチャクについて見てみましょう。

学名をZoanthidea、生息環境は、体内に褐虫藻をもつ種では、熱帯、亜熱帯の浅瀬の海に住んでおり、

褐虫藻を持たない種は、南北両極地域の水温の低い海や、数1000mの深海まで分布を拡大しています。

スナギンチャクは、基質を覆う共肉から、個虫が立ち上がるという、

典型的な群体性ポリプの形態をとる生き物です。

 

スナギンチャク側のメリットとしては、ヤドカリが補食をするために移動するときに、

スナギンチャクもそのお相伴にあずかることで、より確実に捕食ができるということ。

これをもし、ヤドカリの方がスナギンチャクより食事の頻度が少ないものであれば、

スナギンチャクは餓えてしまいますが、

実際にはヤドカリの方が食事の頻度が高いため、都合がよいのでしょう。

ヤドカリ側のメリットとしては、スナギンチャクの持つパリトキシンの毒により、

外敵を遠ざけるという役割です。

また、自分とともにスナギンチャクも成長するため、

背負っている貝の引っ越しをする必要がありません。

シンカイアシボソヤドカリと、スナギンチャクの寿命を比較すると、

スナギンチャクの方が寿命が長いです。

 

実は、スナギンチャクとヤドカリが共生をするのは、

シンカイアシボソヤドカリに限ったことではなく、

非常に多くの種が知られています。Atesという研究者によると、これらの組み合わせは三つに大別でき、

まず一つ目に、スナギンチャクは基質として巻貝の殻に取りつくが、

その巻き貝のうちのいくつかの割合にヤドカリが住んでいるもの。

例えば、スナギンチャクEpizoanthus arenaceusの場合は、

彼らがとりついた巻き貝の7パーセントを、

ヤドカリPaguristes eremitaと、Pagurus cuanensisが占めています。

 

次に、スナギンチャクが基質として取り付いた巻き貝の大半にヤドカリが住んでおり、

かつcarcinoeciumを形成するもの。Epizoanthus incrustatusと共生するヤドカリなど。

carcinoeciumとは、巻き貝の中にすみついたヤドカリが、自ら貝殻様の組織を作り出し、

結果として、宿として使っている巻き貝の殻を延長拡大したりする行為です。

 

そして最後に、スナギンチャクを、ヤドカリが直接抱えるという、

三つの中で唯一巻き貝を介さないもの。

スナギンチャクは自分の腹部によってヤドカリをおおい、

しばしばベントラルポリプという、大きなポリプを形成します。

この仲間にシンカイアシボソヤドカリは含まれ、

このほかにも少なくとも13種が、Balssという研究者が1924年にしるした、

"Zoanthide-harmit crab symbioses"に記載されています。

 

スナギンチャクは一般に、より餌の乏しい環境では無性生殖によってより大きな群体を作り、

より餌の豊富な環境ではそれ以上の群体を作るのをやめ、今度は有性生殖をする準備を進めます。

これは、群体によって各ポリプで生命活動の役割を分化させることでエネルギーの余剰を生み出し、

そのエネルギーを使って今度はクローンではなく

雌雄の遺伝子を混ぜた子を生み出すという、生き残りの知恵でしょう。

まるで、人間が物質的に貧窮した社会では集団行動をし、

物質的に豊かになると今度は個人活動が発達する姿に似ていますね。

 

同じ花虫綱に属する刺胞動物であるイソギンチャクとスナギンチャク。

食べ物と老廃物を出し入れする口道と、袋状になって体を形作っている体壁との間に、

隔膜という襞があり、生殖巣もその中で発達します。

この隔膜は、イソギンチャクやスナギンチャクの人生の初期では数が少なく、

成長とともにその数が増えていきますが、増え方がイソギンチャクとスナギンチャクで違うことで、

これらの種類は分けられています。イソギンチャクは、若いころは6対の隔膜だったものが、

隔膜と隔膜の間で新しい隔膜が生まれて、6対から12対、24対…というふうに増えていき、

スナギンチャクは腹側管溝とよばれる場所からまず二枚の隔膜が生まれ、

そこの1点から順次、円周をたどるように増えていくという違いがあります。

 

孤独より、肌を寄せ合ったほうが楽なので、一緒に過ごす・・・

 

 

核家族化、老人世帯の独居化による孤独死や、

地域コミュニティと切り離された若者のメンタルヘルスの悪化が取りざたされる昨今。

その理由の一つには、自立、自活を過度に促す風潮にあるのではないかと、

シンカイアシボソヤドカリの姿を見てふと思いました。

生活を送る上での資源が有限で、戦闘によって所有権を奪い合う・・・、

そんなFight or Frightの思考に、われわれは陥りがちです。

しかし、生き残って子孫を残すという目的さえ果たせるのなら、

所有権など気にせず、お互いの利益を分かち合う。

そんなシンカイアシボソヤドカリの姿から再び調和を学ぶことが出来たら、

より豊かな人生が送れるのかもしれませんね。

冒頭のイラストでは、シンカイアシボソヤドカリのかん脚にもびっしりと寄生生物が張り付いています。

まるで、スナギンチャクからの恩恵を、ほかの生き物にも還元しているかのようです。

神秘的であると同時に、心が癒されます。

 

沼津港深海魚水族館 アシボソシンカイヤドカリの動画

 

 

 

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