はじめての深海

ラブカをもっと知ろう!深海の生きた化石でもある古代サメの魅力

2016年11月12日

ラブカ 引用

 

深海魚にして古代魚という、ハイブリッドな魅力を持つサメ、ラブカをご紹介します。

後述しますがラブカは三尖頭という形状の歯を持っており、

これは約3億7000万年前の古生代中ごろに生息していた、

クラドセラケという古代ザメの化石にしか見られないそうです。

 

ラブカ

 

ラブカ自身の化石も、8000万年前ほど前のものが出ており、

その化石は現在も、駿河湾などにすむラブカと同じ形をしています。

まさに、生きた化石。

アノマロカリスのようにすでに絶滅した古代の海洋動物の姿に思いを馳せるのは

なんともいえず楽しいものですが、ラブカは今も当時の姿かたちを今に残しているわけですから、

これからも末永く地球で生きていって欲しいものです。

 

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子供をゆっくり育てるラブカ

ラブカ 引用

 

魚は卵を産む生き物というイメージが強いと思いますが、

サメの一種やウミタナゴなど、胎生の魚もいます。

ラブカもそのひとつで、胎生には、卵黄嚢型、共食い型、胎盤形成型、子宮内分泌型があります。

卵黄嚢型というのが、シーラカンスと同じタイプで、サメではラブカが該当します。

初期には、卵殻に包まれた受精卵に30mmほどの胎仔がくっついたような形になっており、

その後、10cmぐらいに成長すると卵殻はなくなりますが、

乱黄とはまだくっついており、その形で母親のおなかの中で育ちます。

卵黄の養分によって胎仔はだんだん大きくなり、

それにつれて卵黄の方は小さくなっていき、

胎仔が 55cmほどになったところで、めでたく出産となります。

 

ラブカ

 

これがラブカの胎仔です。

まだ出産まで2年ほどあろうかというものですが、

すでにラブカの特徴である6対の、胴体の縦に半周ほどを占めている大きなエラ穴が確認できますし、

吻がなく亀やワニのように特徴的な顔立ちも、すでに親譲りです。

お腹にくっついているのが卵黄です。

 

高見宗弘、福井敦両氏の研究によると、

深海魚には卵を沈性、すなわち水には沈む特性を与えて生むものと、

浮性、すなわち水に浮く性質をもたせて生むものがあり、

前者は親の魚と似た性能をあらかじめ持った状態で成熟して卵から孵化し、

卵自体が沈むということは孵化するのも親魚が住んでいる深海ということになります。

後者は未成熟な状態で孵化をして、水深の浅い所で成長した後、変態して親の形に近づき、

そして親が住んでいる深海へと住む場所を変えていくといいます。

 

そしてラブカのもう一つの特徴として、妊娠期間が、

陸上の生物も含めて全生物で最長の、3年半にもなるということが挙げられます。

一回に生む子供の数も、2匹から10匹ほどですので、

非常に子供を少数精鋭で大切に育てるという意味では、

人間のような捕食者の脅威に晒されるリスクが少なく

比較的成熟しているといわれる生物に共通するものがあります。

 

珍しい形状のラブカの歯

ラブカ(写真引用元:wikipedia ラブカ

 

我々人間は歯の生え変わりは1度だけですが、

サメは機能歯が傷ついたり古くなったりすると抜け落ちて、裏側の方からは次の歯がでてきます。

回数にも制限がなく、歯の生え変わりは一生続くものです。

これは、人気漫画のワンピースをご覧になった方であれば、

サメの強敵が、何度も自らの歯を生え代わらせて襲いかかってきたシーンがありますのでご存じのことでしょう。

サメを含む軟骨魚類は、体を支える骨格が、カルシウムを主とした硬骨ではなく、

たんぱく質を主とした軟骨ですので、体内の骨を作るために多くのカルシウムを必要とはしません。

そのため、余剰となったカルシウムを、硬骨魚とは違った方法で生かすことができます。

それがこの歯を何度も生え変らせることで、切れ味と強度を保たせる手法と、

サメ肌という言葉がある通り、うろこというよりは歯に組成が近い、

ほかの魚類にはない強固なうろこに対してカルシウムを使うことになっています。

 

ラブカ

 

 

数あるサメの中であっても唯一の形状の歯をもっているのがラブカです。

ラブカの歯は、中央の主尖頭、その両側に副尖頭という、三つの出っ張りがあり、

ちょうどカエデの葉っぱの、でっぱりの数を五つから三つに減らしたような形状をしています。

アディダスのロゴマークといってもいいかもしれませんね。

ラブカの歯の珍しいところはその形状だけではなく、

一番前の歯のすぐ後ろに、次の歯がすでに生えかけています。

これによって、機能歯が最前面だけが使われているわけではなく、

数セットが同時に使われているのです。

 

 

ラブカ

 

ちなみに、このガンガン生えかわるという性質は鱗も同様で、

ほかの魚類でもちいられるうろこによる年齢の判別が、サメの場合は困難であるようです。

 

今年の夏も暑かったですが、私が植木鉢で育てている植物も暑さにかなりまいって、

くたっとなったり葉が茶色になって抜け落ちたりしていました。

「こりゃあ枯れてしまうのも時間の問題かな。」と思ったものですが、

果たして秋になって元気に花を咲かせています。

この姿を見て、一見元気がなくなっているのも、歯を失うのも、

現状に応じて必要ないものをドラスティックに捨てて、

本体たる茎や根を守り、環境が再び良好になってからの結実に備える、

という戦略をとるのかもしれないと思いましたね。

末端に弱った葉を、名残惜しく大量に所持していれば、

茎や葉も弱ることになりかねません。

代謝の最終産物を、硬い道具として使って、しかも執着なくどんどん生えかわらせる。

この姿は、動物と植物の違いこそあれ、ラブカの歯にも共通しているように思われました。

 

 

歯が欠けてもいいのなら、衝突という優れた手段を気兼ねなく使える

ラブカ wiki

 

実は、硬い物を対象にぶつけると、密着した状態でじわじわと力を加える場合の半分で、

対象を加工することができるのです。動物が爪や歯をもっているのは、

この優れた効率の良さを知っているからでしょう。

なぜ半分の力ですむのかを、久保田浪之助著、

"とことん優しい材料力学の本"で解説されていますので、その証明方法を少し追ってみましょう。

 

まず、重たいものが材料へと落下して、材料がゆがんだ場合、

落下距離は、落とした高さhプラス、材料のゆがみλ

ですので、h+λになります。

次に、材料に加わった力というのは、

重いものが落ちた時のエネルギーですから、e=mg(h+λ)になります。

材料がひずんだ時のエネルギー、eλは、1/2 Pλであらわすことができます。(Pは荷重)

このことから、eλ=1/2 Pλ、式を変形して、e=eλ、

すなわち、mg(h+λ)=1/2Pλになります。

さて、ぶつかられた材料の伸びλは、P So/ AEの式であらわすことができます。

(Soは材料の長さ、Aは材料の断面積、Eは材料の変形の度合いの指標であるヤング率。)

 

これで、さっきの式をラムダを使わずに表すことができるようになりましたね。

mgh+mg(PSo / AE )=P^2 So /2AEです。

これを変形すると、P^2 SO /2AE - mgSo/AE - mgh=0の形になり、

2次方程式の解の公式が使えます。

 

すると、以下のようになります。

 

ラブカ

 

先にルートの中を計算しましょうか。両項にmgso/mgsoをかけて、簡単にします。

 

ラブカ

 

そしてあらためて計算すると、P=mg+mg√(1+2hAE/mgso)となり、

高さhがゼロのときを代入すると、P=2mgになるというわけです。

 

 

まだ人智の及ばないラブカの生態。せめて環境は受け継ぎたい

 

沼津港深海水族館

 

沼津港深海水族館は深海魚ファンの聖地とも言われており、

ラブカ関連の展示もあるのですが、のみならず沼津港という地の利を生かし、

偶然網にかかり捕獲されたラブカを稀に展示してくれています。

直近では2016年10月16日に展示。

残念ながら17日にそのラブカは亡くなりました。

う~ん、私も生きているラブカを見たかったです。

もちろん水族館のスタッフのみなさんは、

現時点でわかっているベストの環境をラブカに与えているはずであり、

それでも数日間生きながらえることしか出来ないのです。

捕獲されたラブカがすでに弱っているということを加味しても、

人類がベスト尽くして管理するより、深海にいることの方が、

ラブカにとって比べようもなく快適なのです。

 

この、人間はすでに有効だと知っている範囲でしか管理ができないという事実は、

人生に謙虚さをもたらしてくれるように思えます。

現時点で分かっていることのベストを尽くすことは、

まだ分かっていないファクターを無視することにもつながり、

その結果として無為に時間を過ごすよりも悪い結果になることもままあるということです。

 

ベストを尽くしている、善をなしているという自覚がある人こそ、反対意見に耳を傾け、

自然環境に対し未着手の部分を"遊び"、

"ショックアブソーバー"として 残しておかねばならないということは確実に言えます。

それは労働環境でたとえて言えば、

机上の生産管理に反する個人裁量や休暇ということになりましょうか。

とするならば、我々人間にとっても都合は同じですね。

 

ラブカに関しては、成体が網にかかることはあっても、

子供から成体に成熟していく過程のラブカが捕獲されることはないため、

ラブカの人生のある時期においてはかなり海の広い範囲で旅をしている可能性が示唆されていますし、

数日単位の行動でも、深海から海表近くにまで浮かんできたりすることもあるようです。

こういった移動の自由の再現が難しいことが、

飼育下でのラブカの衰弱と関係しているのではないかと私は個人的に思っています。

このように、非常に広い範囲を循環して一生をおくる生き物にとっては、

その循環を妨げられることが死活問題です。

動物にとって住みよい環境を維持するという点を考えれば、

移動の障害となる人造物をみだりに作ることも避けるべきでしょう。

 

ラブカの撮影に成功した動画


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